| Tweet 「アイヌ神話・民話体系」全60話 第59話 星の底で笑う白い狐https://ganta.sa-suke.com/1059.html | |
Ⅰ 自然とカムイの章(1〜15話) 第1話 風のカムイが最初に歌った日 第2話 大地を抱くクマのカムイ 第3話 川の女神トゥラノの涙 第4話 火のカムイと雪のカムイの争い 第5話 海霧を運ぶシャチの精霊 第6話 森の影を食べるフクロウの伝承 第7話 山の心臓が鳴る夜 第8話 雷のカムイが子を授ける話 第9話 霧の中で迷う鹿の魂 第10話 星を拾った少年 第11話 氷の裂け目に住む古い神 第12話 風を縫う少女と草原の歌 第13話 湖の底の鏡の国 第14話 木の根が語る千年前の記憶 第15話 太陽を背負ったカラスの旅 Ⅱ 生活と知恵の章(16〜30話)第16話 最初のアットゥシ織り Ⅲ 戦いと民族の記憶の章(31〜50話)第31話 森を歩く影の鹿角
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第59話 星の底で笑う白い狐 世界がまだ若く、風のカムイが歌い、大地のクマのカムイが眠りを守り、火の鳥が赤い羽を広げ、白い狼が夜明けを運び、風の森で眠る赤い鳥が怒りを風に返したころ。 その夜、星空はいつもより青く、深く、静かに揺れていた。 星が震えていた。 光は澄んでいるのに、 影は柔らかいのに、 星の奥から、かすかな笑い声が響いていた。 「……フフ……フフフ……」 夜空の動物たちは囁いた。 「星の底に“白い狐”が現れた」 「狐が笑うと、星が揺れる」 「星の心が乱れている」 その噂は、 星の揺れを読む少女 ホシカ・メノコ の耳にも届いた。 少女は夜空を見上げ、 星の震えを感じ取った。 「……星が泣いてる…… でも、笑ってる…… 星の底で、白い狐が……」 ■ 星の底へ向かう星の森を抜け、 星影の道を渡り、 少女は星の光の奥へ進んだ。 そこには、 星の涙が落ちるたびに開くという 星の底(ホシ・シタ) への道があった。 青い光が揺れ、 影が静かに沈み、 星の記憶が漂っていた。 少女は光の裂け目へ飛び込んだ。 星の底は、 夜空の裏側のような世界だった。 星の涙が光となって漂い、 星の影が霧となって揺れ、 星の歌が遠くで響いていた。 その中心に―― 白い狐 がいた。 狐は星の光をまとい、 瞳は青く、 尾は星の影を揺らしていた。 狐は笑っていた。 「……フフ……フフフ……」 ■ 白い狐の声少女は震えながら言った。 「あなたが……星を揺らしているの?」 白い狐は笑いながら答えた。 「……わたしは……星の底…… 星の涙…… 星の迷い…… 星の孤独…… そのすべてが積もり…… わたしとなった……」 少女は息を呑んだ。 「星の……心……?」 白い狐は尾を揺らした。 「……星は……光を放つ…… だが……光が届かぬ夜もある…… 誰にも見られぬ夜もある…… そのたびに……星は笑う…… 笑えば……孤独を忘れられる…… だが……笑いすぎれば…… 心は……空へ溶ける……」 少女は胸が痛くなった。 「星は……孤独だったの……?」 ■ 星の心の揺れそのとき、星の底が揺れた。 青い光が渦を巻き、 星の影が狐を包み込んだ。 「……星は……見られたい…… 気づかれたい…… だが……誰も見ない夜がある…… その夜……星は笑う…… 笑って……孤独を隠す……」 少女は影に飲まれそうになりながら叫んだ。 「星は見られてるよ! 星があるから、夜は怖くないんだよ! 星の光は、誰かの心に届いてる!」 白い狐は揺れた。 「……届いている……? わたしの光は…… 誰かに届いている……?」 少女は頷いた。 「わたしに届いてる。 星があるから、夜が優しいんだよ」 ■ 星の試練星の影が少女に問いかけた。 「……おまえも……孤独を隠している…… 笑いで…… 強さで…… その孤独を……わたしに寄こせ…… わたしは……孤独を喰う……」 少女は震えた。 ――わたしは孤独なのか。 ――星の底を癒せるのか。 ――白い狐に飲まれずにいられるのか。 そのとき、 星の森で眠った青い鳥の声が 少女の心に響いた。 「迷いは弱さではない。 孤独は光を探すための影だ。」 少女は深く息を吸い、 白い狐に向かって叫んだ。 「孤独でもいい! でも、孤独を隠さなくていい! 星は孤独を光に変えるんだよ! 星は夜を照らすために生まれたんだ!」 白い狐は震えた。 「……孤独は……光に……?」 ■ 白い狐の浄化少女の言葉が星の底に響き、 白い狐は光を帯び始めた。 「……あたたかい…… これは……星の心……?」 星の影が静まり、 白い狐はゆっくりと羽のような尾を広げた。 「……わたしは…… 孤独ではなく…… 星の影…… 光とともに……ある……」 白い狐は光に包まれ、 星の霧となって消えていった。 星の底は静かになり、 星は穏やかに輝いた。 ■ 星の帰還夜空の星々は輝きを増し、 森は静かに光を浴びた。 星の子たちは囁いた。 「星の心が軽くなった」 「白い狐が戻った」 「星が笑っている」 少女は夜空を見上げた。 「星は……孤独でも輝くんだね」 星は優しく瞬き、 少女の頬を照らした。 ■ その後の世界それ以来、 星がひときわ白く揺れる夜には、 人々はこう言うようになった。 「あれは、星の底で笑っていた白い狐が 孤独を光に返した証だ」 星は今日も夜空を照らし、 孤独を抱きながらも、 静かに輝き続けている。 |