「アイヌ神話・民話体系」全60話 第59話 星の底で笑う白い狐https://ganta.sa-suke.com/1059.html

Ⅰ 自然とカムイの章(1〜15話)

第1話 風のカムイが最初に歌った日
第2話 大地を抱くクマのカムイ
第3話 川の女神トゥラノの涙
第4話 
火のカムイと雪のカムイの争い
第5話 海霧を運ぶシャチの精霊
第6話 森の影を食べるフクロウの伝承
第7話 山の心臓が鳴る夜
第8話 雷のカムイが子を授ける話
第9話 霧の中で迷う鹿の魂
第10話 星を拾った少年
第11話 氷の裂け目に住む古い神
第12話 風を縫う少女と草原の歌
第13話 湖の底の鏡の国
第14話 木の根が語る千年前の記憶
第15話 太陽を背負ったカラスの旅

Ⅱ 生活と知恵の章(16〜30話)

第16話 最初のアットゥシ織り
第17話 狩人と弓の精霊の契約
第18話 鮭を呼ぶ歌の誕生
第19話 村を救った薬草の物語
第20話 海を渡る影の船
第21話 風の穴に落ちた少年
第22話 火の鳥が落とした赤い羽
第23話 熊送りの儀式が生まれた日
第24話 星を喰べた山の巨人
第25話 霧の森で笑う子どもたち
第26話 夜明けを運ぶ白い狼
第27話 影を縫う蜘蛛の巣
第28話 風の骨を拾う少年
第29話 月影を抱く黒鹿の旅
第30話 海底に沈んだ風の鈴

Ⅲ 戦いと民族の記憶の章(31〜50話)

第31話 森を歩く影の鹿角
第32話 雪を食べる白い影
第33話 風を忘れた山の梟
第34話 影を渡る黒い舟
第35話 星明かりを飲む黒い鳥
第36話 夜の川を渡る赤い魚
第37話 影を食べる黒い霧
第38話 風の底で眠る青い石
第39話 最後の戦いと雪嵐の夜
第40話 霧の海で歌う青い鯨
第41話 影の森で眠る黒い花
第42話 星の底で笑う赤い面
第43話 風の声を盗む黒い羽
第44話 雪の底で笑う白い面
第45話 夜明けを盗む黒い狼
第46話 影の海で眠る青い面
第47話 風の森で泣く白い鳥
第48話 月の森で歌う黒い鹿
第49話 影の谷で眠る赤い狐
第50話 風の底で歌う白い面

Ⅳ 星・海・影・雪・風 「鳥・鯨・狐・面・鹿」(51〜60話)

第51話 星の森で眠る青い鳥
第52話 海の底で笑う黒い鯨
第53話 影の森で歌う白い狐
第54話 雪の森で眠る黒い面
第55話 風の影で笑う青い狐
第56話 月の底で眠る白い鳥
第57話 影の底で笑う黒い鳥
第58話 風の森で眠る赤い鳥
第59話 星の底で笑う白い狐
第60話 雪の底で歌う黒い鹿

第59話 星の底で笑う白い狐

世界がまだ若く、風のカムイが歌い、大地のクマのカムイが眠りを守り、火の鳥が赤い羽を広げ、白い狼が夜明けを運び、風の森で眠る赤い鳥が怒りを風に返したころ。  その夜、星空はいつもより青く、深く、静かに揺れていた。

星が震えていた。

光は澄んでいるのに、  影は柔らかいのに、  星の奥から、かすかな笑い声が響いていた。

「……フフ……フフフ……」

夜空の動物たちは囁いた。

「星の底に“白い狐”が現れた」  「狐が笑うと、星が揺れる」  「星の心が乱れている」

その噂は、  星の揺れを読む少女 ホシカ・メノコ の耳にも届いた。

少女は夜空を見上げ、 星の震えを感じ取った。

「……星が泣いてる……   でも、笑ってる……   星の底で、白い狐が……」

■ 星の底へ向かう

星の森を抜け、  星影の道を渡り、  少女は星の光の奥へ進んだ。

そこには、  星の涙が落ちるたびに開くという  星の底(ホシ・シタ) への道があった。

青い光が揺れ、  影が静かに沈み、  星の記憶が漂っていた。

少女は光の裂け目へ飛び込んだ。

星の底は、  夜空の裏側のような世界だった。

星の涙が光となって漂い、  星の影が霧となって揺れ、  星の歌が遠くで響いていた。

その中心に――  白い狐 がいた。

狐は星の光をまとい、  瞳は青く、  尾は星の影を揺らしていた。

狐は笑っていた。

「……フフ……フフフ……」

■ 白い狐の声

少女は震えながら言った。

「あなたが……星を揺らしているの?」

白い狐は笑いながら答えた。

「……わたしは……星の底……   星の涙……   星の迷い……   星の孤独……   そのすべてが積もり……   わたしとなった……」

少女は息を呑んだ。

「星の……心……?」

白い狐は尾を揺らした。

「……星は……光を放つ……   だが……光が届かぬ夜もある……   誰にも見られぬ夜もある……   そのたびに……星は笑う……   笑えば……孤独を忘れられる……   だが……笑いすぎれば……   心は……空へ溶ける……」

少女は胸が痛くなった。

「星は……孤独だったの……?」

■ 星の心の揺れ

そのとき、星の底が揺れた。

青い光が渦を巻き、  星の影が狐を包み込んだ。

「……星は……見られたい……   気づかれたい……   だが……誰も見ない夜がある……   その夜……星は笑う……   笑って……孤独を隠す……」

少女は影に飲まれそうになりながら叫んだ。

「星は見られてるよ!   星があるから、夜は怖くないんだよ!   星の光は、誰かの心に届いてる!」

白い狐は揺れた。

「……届いている……?   わたしの光は……   誰かに届いている……?」

少女は頷いた。

「わたしに届いてる。   星があるから、夜が優しいんだよ」

■ 星の試練

星の影が少女に問いかけた。

「……おまえも……孤独を隠している……   笑いで……   強さで……   その孤独を……わたしに寄こせ……   わたしは……孤独を喰う……」

少女は震えた。

――わたしは孤独なのか。  ――星の底を癒せるのか。 ――白い狐に飲まれずにいられるのか。

そのとき、  星の森で眠った青い鳥の声が  少女の心に響いた。

「迷いは弱さではない。  孤独は光を探すための影だ。」

少女は深く息を吸い、  白い狐に向かって叫んだ。

「孤独でもいい!   でも、孤独を隠さなくていい!   星は孤独を光に変えるんだよ!   星は夜を照らすために生まれたんだ!」

白い狐は震えた。

「……孤独は……光に……?」

■ 白い狐の浄化

少女の言葉が星の底に響き、  白い狐は光を帯び始めた。

「……あたたかい……   これは……星の心……?」

星の影が静まり、  白い狐はゆっくりと羽のような尾を広げた。

「……わたしは……   孤独ではなく……   星の影……   光とともに……ある……」

白い狐は光に包まれ、  星の霧となって消えていった。

星の底は静かになり、  星は穏やかに輝いた。

■ 星の帰還

夜空の星々は輝きを増し、  森は静かに光を浴びた。

星の子たちは囁いた。

「星の心が軽くなった」  「白い狐が戻った」 「星が笑っている」

少女は夜空を見上げた。

「星は……孤独でも輝くんだね」

星は優しく瞬き、  少女の頬を照らした。

■ その後の世界

それ以来、  星がひときわ白く揺れる夜には、  人々はこう言うようになった。

「あれは、星の底で笑っていた白い狐が  孤独を光に返した証だ」

星は今日も夜空を照らし、  孤独を抱きながらも、  静かに輝き続けている。