| Tweet 「アイヌ神話・民話体系」全60話 第53話 影の森で歌う白い狐https://ganta.sa-suke.com/1053.html | |
Ⅰ 自然とカムイの章(1〜15話) 第1話 風のカムイが最初に歌った日 第2話 大地を抱くクマのカムイ 第3話 川の女神トゥラノの涙 第4話 火のカムイと雪のカムイの争い 第5話 海霧を運ぶシャチの精霊 第6話 森の影を食べるフクロウの伝承 第7話 山の心臓が鳴る夜 第8話 雷のカムイが子を授ける話 第9話 霧の中で迷う鹿の魂 第10話 星を拾った少年 第11話 氷の裂け目に住む古い神 第12話 風を縫う少女と草原の歌 第13話 湖の底の鏡の国 第14話 木の根が語る千年前の記憶 第15話 太陽を背負ったカラスの旅 Ⅱ 生活と知恵の章(16〜30話)第16話 最初のアットゥシ織り Ⅲ 戦いと民族の記憶の章(31〜50話)第31話 森を歩く影の鹿角
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第53話 影の森で歌う白い狐 世界がまだ若く、風のカムイが歌い、大地のクマのカムイが眠りを守り、火の鳥が赤い羽を広げ、白い狼が夜明けを運び、黒鹿が月影を抱いて旅をし、海の底で笑う黒い鯨が本当の笑いを海に返したころ。 その夜、影の森に奇妙な歌声が響いた。 「……カサ……カサ……」 それは風でもなく、 鳥でもなく、 影そのものが歌っているような声だった。 森の動物たちは怯えた。 「影の森に“白い狐”が現れた」 「狐が歌うと、影が揺れる」 「影の心が乱れている」 その噂は、 影を読む狐 レクン・カムイ の耳にも届いた。 レクン・カムイは影の揺れを読み、 静かに言った。 「……影の森で“白い狐”が歌っている。 あれは、影の心そのものだ」 ■ 影の森を読む少女影の気配を読むことができる少女がいた。 名を カゲユラ・メノコ。 影の揺れ、影の涙、影の歌を感じ取ることができた。 ある夜、少女は影の森の近くで 白い光を見た。 影の中で、 白い何かが揺れていた。 少女は影に手を当てた。 「……影が泣いてる…… 白い狐が……影の心を歌ってる……」 そのとき、レクン・カムイが現れた。 「カゲユラ・メノコよ、 影の森に“白い狐”が現れた。 おまえの力が必要だ」 少女は頷いた。 「影を救う。 白い歌声が、影を震わせてる」 ■ 影の森へ向かう影の森は深く、 木々は影をまとい、 風は影のように冷たかった。 少女が森へ入ると、 影がざわめき、 白い光が揺れた。 そこに―― 白い狐 がいた。 その体は雪のように白く、 瞳は影の奥を映し、 尾は光と影の境界を揺らしていた。 狐は歌っていた。 「……カサ……カサ……」 その歌は、 影の心を震わせるような深い響きだった。 ■ 白い狐の正体少女は震えながら言った。 「あなたが……影を揺らしているの?」 白い狐は静かに答えた。 「……わたしは……影の心…… 影は……心の形…… 心が揺れれば……影も揺れる…… 心が泣けば……影も泣く…… 心が迷えば……影も迷う…… そのすべてが積もれば…… わたしが生まれる……」 少女は息を呑んだ。 「影の……心……?」 狐は頷いた。 「……影は……心の影…… だが……心が影を忘れれば…… 影は孤独になる…… 孤独は歌となり…… わたしを作る……」 少女は胸が痛くなった。 「影は……孤独なんかじゃないよ。 影はいつも、わたしたちと一緒にいる」 ■ 影の孤独そのとき、森が揺れた。 影が渦を巻き、 少女と白い狐を包み込んだ。 「……影は……忘れられる…… 影は……嫌われる…… 影は……見られない…… だから……孤独だ……」 少女は影に飲まれそうになりながら叫んだ。 「影は嫌われてなんかいない! 影はわたしたちの一部だよ! 影があるから、光がわかるんだよ!」 白い狐は揺れた。 「……光と影は…… ともにある……?」 ■ 影の試練影の渦が少女に問いかけた。 「……おまえも……影を恐れている…… 影を見れば……心が揺れる…… その恐れを……わたしに寄こせ…… わたしは……恐れを喰う……」 少女は震えた。 ――わたしは影を恐れているのか。 ――影の心を癒せるのか。 ――白い狐に飲まれずにいられるのか。 レクン・カムイの声が響いた。 「心を強く持て! 影はおまえの友だ! 影を拒めば、影は孤独になる!」 少女は深く息を吸い、 白い狐に向かって叫んだ。 「影! わたしは君を拒まない! 影はわたしの一部だよ! 光と影は、いっしょにあるもの! 影は光の友だよ!」 白い狐は震えた。 「……影は……光の友……?」 ■ 白い狐の浄化少女の言葉が影の森に響き、 白い狐は光を帯び始めた。 「……あたたかい…… これは……心の光……?」 レクン・カムイは言った。 「影は光を恐れぬ。 光があるから影は生まれる。 おまえは影の心。 孤独を手放せば、影は自由になる」 白い狐はゆっくりと光に包まれ、 影の霧となって消えていった。 影の森は静かになり、 影は穏やかに揺れた。 ■ 影の帰還少女の影は濃くなり、 しっかりと地面に寄り添った。 レクン・カムイは言った。 「おまえの心が影を救い、 影が孤独を手放した。 影は心の形。 心を大切にすれば、影も強くなる」 少女は微笑んだ。 「影は……わたしの友だ」 ■ その後の世界それ以来、 影の森がひときわ静かに揺れる夜には、 人々はこう言うようになった。 「あれは、影の森で歌っていた白い狐が 孤独を光に返した証だ」 影は今日も静かに揺れ、 光とともに世界を歩いている。 |