「アイヌ神話・民話体系」全60話 火の鳥が落とした赤い羽https://ganta.sa-suke.com/1022.html

Ⅰ 自然とカムイの章(1〜15話)

第1話 風のカムイが最初に歌った日
第2話 大地を抱くクマのカムイ
第3話 川の女神トゥラノの涙
第4話 
火のカムイと雪のカムイの争い
第5話 海霧を運ぶシャチの精霊
第6話 森の影を食べるフクロウの伝承
第7話 山の心臓が鳴る夜
第8話 雷のカムイが子を授ける話
第9話 霧の中で迷う鹿の魂
第10話 星を拾った少年
第11話 氷の裂け目に住む古い神
第12話 風を縫う少女と草原の歌
第13話 湖の底の鏡の国
第14話 木の根が語る千年前の記憶
第15話 太陽を背負ったカラスの旅

Ⅱ 生活と知恵の章(16〜30話)

第16話 最初のアットゥシ織り
第17話 狩人と弓の精霊の契約
第18話 鮭を呼ぶ歌の誕生
第19話 村を救った薬草の物語
第20話 海を渡る影の船
第21話 風の穴に落ちた少年
第22話 火の鳥が落とした赤い羽
第23話 熊送りの儀式が生まれた日
第24話 星を喰べた山の巨人
第25話 霧の森で笑う子どもたち
第26話 夜明けを運ぶ白い狼
第27話 影を縫う蜘蛛の巣
第28話 風の骨を拾う少年
第29話 月影を抱く黒鹿の旅
第30話 海底に沈んだ風の鈴

Ⅲ 戦いと民族の記憶の章(31〜50話)

第31話 森を歩く影の鹿角
第32話 雪を食べる白い影
第33話 風を忘れた山の梟
第34話 影を渡る黒い舟
第35話 星明かりを飲む黒い鳥
第36話 夜の川を渡る赤い魚
第37話 影を食べる黒い霧
第38話 風の底で眠る青い石
第39話 最後の戦いと雪嵐の夜
第40話 霧の海で歌う青い鯨
第41話 影の森で眠る黒い花
第42話 星の底で笑う赤い面
第43話 風の声を盗む黒い羽
第44話 雪の底で笑う白い面
第45話 夜明けを盗む黒い狼
第46話 影の海で眠る青い面
第47話 風の森で泣く白い鳥
第48話 月の森で歌う黒い鹿
第49話 影の谷で眠る赤い狐
第50話 風の底で歌う白い面

Ⅳ 星・海・影・雪・風 「鳥・鯨・狐・面・鹿」(51〜60話)

第51話 星の森で眠る青い鳥
第52話 海の底で笑う黒い鯨
第53話 影の森で歌う白い狐
第54話 雪の森で眠る黒い面
第55話 風の影で笑う青い狐
第56話 月の底で眠る白い鳥
第57話 影の底で笑う黒い鳥
第58話 風の森で眠る赤い鳥
第59話 星の底で笑う白い狐
第60話 雪の底で歌う黒い鹿

第22話 火の鳥が落とした赤い羽

世界がまだ若く、風のカムイが歌い、大地のクマのカムイが眠りを守り、川の女神トゥラノが森を癒し、海のシャチの精霊が霧を運び、影の舟が夜の海を渡り、雪原には霜をまとう鹿の王が歩き、草原には風を縫う少女の歌が響き、風の穴には風の底の少女が眠っていたころ。  その空のさらに高みには、ひときわ強い光を放つ存在がいた。

火の鳥――アペ・チェプ。  炎の翼を持ち、太陽の欠片を宿し、  空を巡って世界に温もりを届けるカムイである。

アペ・チェプが飛ぶと、空は赤く染まり、  その羽が落ちれば、火の恵みが地上にもたらされると伝えられていた。

しかし、ある日の夕暮れ――  空を裂くような叫びが響いた。

「……あああああ……!」

火の鳥が、空から落ちかけていた。

■ 火の鳥の異変

風のカムイ・レラが空を駆け、  火の鳥のもとへ急いだ。

アペ・チェプの翼は弱り、  炎は揺らぎ、  体は赤い光を失いかけていた。

「アペ・チェプよ、どうしたのだ」

火の鳥は苦しげに言った。

「……わたしの羽が……奪われた……   赤い羽は……火の心……   それを失えば……わたしは……燃え尽きる……」

レラ・カムイは驚いた。

「羽を奪った者がいるのか」

アペ・チェプは頷いた。

「北の山の奥……   “影を喰う獣” が……   わたしの羽を奪った……   火の光を……影に閉じ込めた……」

火の鳥の炎は弱まり、  空は急速に冷え始めた。

レラ・カムイは言った。

「火の鳥が消えれば、世界は凍る。   羽を取り戻さねばならぬ」

しかし、火の鳥は首を振った。

「わたしはもう……飛べぬ……   羽を取り戻せるのは……   火を恐れぬ者だけ……」

■ 火を恐れぬ少年

そのとき、森の端からひとりの少年が現れた。

名を アツ・シモ。  火を扱うのが得意で、  村では「火の子」と呼ばれていた。

アツ・シモは火の鳥を見て言った。

「ぼくが羽を取り戻します。   火はぼくの友だ。   火の鳥の羽を奪われたままにはできない」

レラ・カムイは少年を見つめた。

「危険だぞ。   影を喰う獣は、火を憎む。   おまえの火を狙うだろう」

アツ・シモは胸を張った。

「火は恐れられるけれど、  火は命を温めるものだ。  ぼくは火を恐れない」

火の鳥は弱く微笑んだ。

「……ならば……   この“火の欠片” を持っていけ……   わたしの力の残り……  これがあれば……影に飲まれぬ……」

アツ・シモは赤く光る小さな火の玉を受け取った。

■ 影を喰う獣の山へ

アツ・シモは北の山へ向かった。

山は黒く、  木々は影に覆われ、  風は冷たく、  光は届かなかった。

レラ・カムイが風で道を開き、  影の狐レクン・カムイが影の動きを読み、  アツ・シモは火の欠片を胸に抱いて進んだ。

やがて、山の奥に巨大な洞窟が現れた。

洞窟の中は真っ暗で、  影が生き物のように揺れていた。

その奥から、低い唸り声が響いた。

「……火の匂い……   火を持つ者……   許さぬ……」

影を喰う獣――  カゲ・ホロ・ニシパ が姿を現した。

体は黒い霧のようで、  目は闇の奥で光り、  口は影を飲み込む深い穴のようだった。

■ 影を喰う獣との対峙

カゲ・ホロ・ニシパは唸った。

「火は……まぶしい……   火は……影を殺す……   だから……火の鳥の羽を奪った……   火は……消す……!」

アツ・シモは一歩も引かなかった。

「火は影を殺さない!   火は光を生むけれど、   影は光があるから生まれるんだ!」

獣は揺れた。

「……うそだ……   火は……こわい……   火は……わたしを……消す……」

アツ・シモは胸の火の欠片を掲げた。

「火は怖くない。   火は温かい。   火は命を守る。   ぼくは火とともに生きている!」

火の欠片が強く輝き、  洞窟の影を照らした。

影は揺れ、  獣は後ずさった。

「……あたたかい……   これは……火……?   火は……やさしい……?」

アツ・シモは頷いた。

「火は優しい。   怖いのは、火を知らないからだ」

獣は震え、  やがて静かに影を吐き出した。

その影の中に、  赤く光る羽があった。

■ 火の鳥の羽の帰還

アツ・シモは赤い羽を抱え、  火の鳥のもとへ戻った。

アペ・チェプは弱々しく羽を広げた。

「……それは……   わたしの……心……」

アツ・シモが羽を差し出すと、  火の鳥の体が赤く輝き始めた。

炎が戻り、  翼が燃え、  空が赤く染まった。

「……戻った……   わたしの火が……戻った……!」

火の鳥は空へ舞い上がり、  大きく羽ばたいた。

その羽ばたきは、  世界に温もりを広げた。

■ その後の世界

火の鳥が戻ったことで、  春は再び訪れ、  雪は溶け、  草原は芽吹き、  海は光を取り戻した。

アツ・シモは村に戻り、  火の鳥から授かった小さな赤い羽を  胸に大切にしまった。

そして、夕暮れに空が赤く染まると、  人々はこう言うようになった。

「あれは、火の鳥が赤い羽を広げて飛んでいるのだ」

火の鳥は今日も空を巡り、  世界に温もりを届け続けている。