「アイヌ神話・民話体系」全60話 第35話 星明かりを飲む黒い鳥https://ganta.sa-suke.com/1035.html

Ⅰ 自然とカムイの章(1〜15話)

第1話 風のカムイが最初に歌った日
第2話 大地を抱くクマのカムイ
第3話 川の女神トゥラノの涙
第4話 
火のカムイと雪のカムイの争い
第5話 海霧を運ぶシャチの精霊
第6話 森の影を食べるフクロウの伝承
第7話 山の心臓が鳴る夜
第8話 雷のカムイが子を授ける話
第9話 霧の中で迷う鹿の魂
第10話 星を拾った少年
第11話 氷の裂け目に住む古い神
第12話 風を縫う少女と草原の歌
第13話 湖の底の鏡の国
第14話 木の根が語る千年前の記憶
第15話 太陽を背負ったカラスの旅

Ⅱ 生活と知恵の章(16〜30話)

第16話 最初のアットゥシ織り
第17話 狩人と弓の精霊の契約
第18話 鮭を呼ぶ歌の誕生
第19話 村を救った薬草の物語
第20話 海を渡る影の船
第21話 風の穴に落ちた少年
第22話 火の鳥が落とした赤い羽
第23話 熊送りの儀式が生まれた日
第24話 星を喰べた山の巨人
第25話 霧の森で笑う子どもたち
第26話 夜明けを運ぶ白い狼
第27話 影を縫う蜘蛛の巣
第28話 風の骨を拾う少年
第29話 月影を抱く黒鹿の旅
第30話 海底に沈んだ風の鈴

Ⅲ 戦いと民族の記憶の章(31〜50話)

第31話 森を歩く影の鹿角
第32話 雪を食べる白い影
第33話 風を忘れた山の梟
第34話 影を渡る黒い舟
第35話 星明かりを飲む黒い鳥
第36話 夜の川を渡る赤い魚
第37話 影を食べる黒い霧
第38話 風の底で眠る青い石
第39話 最後の戦いと雪嵐の夜
第40話 霧の海で歌う青い鯨
第41話 影の森で眠る黒い花
第42話 星の底で笑う赤い面
第43話 風の声を盗む黒い羽
第44話 雪の底で笑う白い面
第45話 夜明けを盗む黒い狼
第46話 影の海で眠る青い面
第47話 風の森で泣く白い鳥
第48話 月の森で歌う黒い鹿
第49話 影の谷で眠る赤い狐
第50話 風の底で歌う白い面

Ⅳ 星・海・影・雪・風 「鳥・鯨・狐・面・鹿」(51〜60話)

第51話 星の森で眠る青い鳥
第52話 海の底で笑う黒い鯨
第53話 影の森で歌う白い狐
第54話 雪の森で眠る黒い面
第55話 風の影で笑う青い狐
第56話 月の底で眠る白い鳥
第57話 影の底で笑う黒い鳥
第58話 風の森で眠る赤い鳥
第59話 星の底で笑う白い狐
第60話 雪の底で歌う黒い鹿
第35話 星明かりを飲む黒い鳥

世界がまだ若く、風のカムイが歌い、大地のクマのカムイが眠りを守り、火の鳥が赤い羽を広げ、白い狼が夜明けを運び、黒鹿が月影を抱いて旅をし、影の舟が迷った影を導いていたころ。  その夜空に、奇妙な異変が起きた。

星が弱っていた。

いつもなら夜空に散らばる星々は、  鋭く、冷たく、澄んだ光を放つはずだった。

しかし、その夜は違った。

星は揺れ、  光は薄れ、  まるで誰かに吸い取られているようだった。

星の子を守るカムイたちはざわめいた。

「星が痩せている」  「星明かりが奪われている」  「星を喰うものが現れたのか」

そのとき、夜空を横切る黒い影があった。

黒い鳥――ホシ・クンネ・チカプ。

その鳥は、星明かりを飲み込むように飛び、  通り過ぎたあとには、  星の光がひときわ弱くなっていた。

■ 星明かりを読む少女

山の麓に、星の気配を読む少女がいた。

名を ホシノ・メノコ。  星の揺れ、星の歌、星の涙を感じ取ることができた。

その夜、少女は空を見上げて震えた。

「星が……泣いている……   光が奪われてる……」

そのとき、星の子の声が聞こえた。

「……たすけて……   黒い鳥が……星明かりを飲んでいる……   このままでは……星が消える……」

少女は決意した。

「わたしが星を守る。   星明かりを取り戻す!」

■ 黒い鳥を追う旅

少女は山を登り、  夜空を見上げながら黒い鳥を追った。

黒い鳥は星の間を飛び、  星明かりを吸い込み、  

その体を黒く輝かせていた。

その姿は美しくもあり、  恐ろしくもあった。

少女は叫んだ。

「黒い鳥! 星を返して!」

黒い鳥は振り返り、  赤い瞳で少女を見つめた。

「……星は……冷たい……   星は……孤独……   わたしは……星の光を飲む……   あたたかくなるために……」

少女は驚いた。

「星明かりを飲むと……暖かくなるの?」

黒い鳥は羽を震わせた。

「……わたしは……   夜の底で生まれた……   光を知らぬ鳥……   光が欲しい……   だから……星を飲む……」

■ 星を喰う鳥の悲しみ

少女は黒い鳥に近づいた。

「星はあなたを傷つけないよ。   星は冷たいけれど、   その光は優しい。   あなたは光を飲むんじゃなくて、   光を“求めている”だけなんだ」

黒い鳥は揺れた。

「……求めている……?   わたしは……光が欲しい……   でも……光はわたしを照らさない……   わたしは黒い……   光は黒を嫌う……」

少女は首を振った。

「光は黒を嫌わない。   黒があるから、光は輝くんだよ。   あなたは光を飲む必要なんてない。   光はあなたのそばにいてくれる」

黒い鳥は震えた。

「……わたしは……   光に……嫌われていない……?」

「もちろん。   星はあなたを照らしたいと思ってる。   だから、星明かりを返して」

■ 星明かりの解放

黒い鳥は胸に抱えた星明かりを見つめ、  ゆっくりと羽を広げた。

その羽の間から、  星の光がこぼれ落ちた。

光は夜空へ戻り、  星々は再び輝き始めた。

星の子の声が響いた。

「……ありがとう……   光が……戻った……」

黒い鳥は少女に言った。

「……わたしは……   光を飲まなくても……   生きられる……?   光は……わたしを照らす……?」

少女は微笑んだ。

「照らすよ。   あなたが光を求める限り、   星はあなたを照らす」

黒い鳥は静かに羽ばたき、  夜空へ舞い上がった。

今度は星を飲むのではなく、  星の間を優しく飛び、  星明かりを守るように舞っていた。

■ その後の世界

星々は再び輝きを取り戻し、  夜空は深く澄んだ光で満ちた。

村人たちは言った。

「星が戻った!」  「黒い鳥は星を守る鳥になったのだ」  「星明かりを飲む鳥は、   星明かりを抱く鳥になった」

ホシノ・メノコは夜空を見上げた。

黒い鳥が星の間を飛び、  星明かりを優しく揺らしていた。

そして、人々はこう言うようになった。

「星がひときわ強く瞬く夜は、  星明かりを飲んだ黒い鳥が、  今は星を守って飛んでいるのだ」

黒い鳥は今日も夜空を巡り、  星の光をそっと見守っている。