| Tweet 「アイヌ神話・民話体系」全60話 第35話 星明かりを飲む黒い鳥https://ganta.sa-suke.com/1035.html | |
Ⅰ 自然とカムイの章(1〜15話) 第1話 風のカムイが最初に歌った日 第2話 大地を抱くクマのカムイ 第3話 川の女神トゥラノの涙 第4話 火のカムイと雪のカムイの争い 第5話 海霧を運ぶシャチの精霊 第6話 森の影を食べるフクロウの伝承 第7話 山の心臓が鳴る夜 第8話 雷のカムイが子を授ける話 第9話 霧の中で迷う鹿の魂 第10話 星を拾った少年 第11話 氷の裂け目に住む古い神 第12話 風を縫う少女と草原の歌 第13話 湖の底の鏡の国 第14話 木の根が語る千年前の記憶 第15話 太陽を背負ったカラスの旅 Ⅱ 生活と知恵の章(16〜30話)第16話 最初のアットゥシ織り Ⅲ 戦いと民族の記憶の章(31〜50話)第31話 森を歩く影の鹿角
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第35話 星明かりを飲む黒い鳥
世界がまだ若く、風のカムイが歌い、大地のクマのカムイが眠りを守り、火の鳥が赤い羽を広げ、白い狼が夜明けを運び、黒鹿が月影を抱いて旅をし、影の舟が迷った影を導いていたころ。 その夜空に、奇妙な異変が起きた。 星が弱っていた。 いつもなら夜空に散らばる星々は、 鋭く、冷たく、澄んだ光を放つはずだった。 しかし、その夜は違った。 星は揺れ、 光は薄れ、 まるで誰かに吸い取られているようだった。 星の子を守るカムイたちはざわめいた。 「星が痩せている」 「星明かりが奪われている」 「星を喰うものが現れたのか」 そのとき、夜空を横切る黒い影があった。 黒い鳥――ホシ・クンネ・チカプ。 その鳥は、星明かりを飲み込むように飛び、 通り過ぎたあとには、 星の光がひときわ弱くなっていた。
■ 星明かりを読む少女山の麓に、星の気配を読む少女がいた。 名を ホシノ・メノコ。 星の揺れ、星の歌、星の涙を感じ取ることができた。 その夜、少女は空を見上げて震えた。 「星が……泣いている…… 光が奪われてる……」 そのとき、星の子の声が聞こえた。 「……たすけて…… 黒い鳥が……星明かりを飲んでいる…… このままでは……星が消える……」 少女は決意した。 「わたしが星を守る。 星明かりを取り戻す!」 ■ 黒い鳥を追う旅少女は山を登り、 夜空を見上げながら黒い鳥を追った。 黒い鳥は星の間を飛び、 星明かりを吸い込み、 その姿は美しくもあり、 恐ろしくもあった。 少女は叫んだ。 「黒い鳥! 星を返して!」 黒い鳥は振り返り、 赤い瞳で少女を見つめた。 「……星は……冷たい…… 星は……孤独…… わたしは……星の光を飲む…… あたたかくなるために……」 少女は驚いた。 「星明かりを飲むと……暖かくなるの?」 黒い鳥は羽を震わせた。 「……わたしは…… 夜の底で生まれた…… 光を知らぬ鳥…… 光が欲しい…… だから……星を飲む……」 ■ 星を喰う鳥の悲しみ少女は黒い鳥に近づいた。 「星はあなたを傷つけないよ。 星は冷たいけれど、 その光は優しい。 あなたは光を飲むんじゃなくて、 光を“求めている”だけなんだ」 黒い鳥は揺れた。
「……求めている……? わたしは……光が欲しい…… でも……光はわたしを照らさない…… わたしは黒い…… 光は黒を嫌う……」
少女は首を振った。 「光は黒を嫌わない。 黒があるから、光は輝くんだよ。 あなたは光を飲む必要なんてない。 光はあなたのそばにいてくれる」 黒い鳥は震えた。 「……わたしは…… 光に……嫌われていない……?」 「もちろん。 星はあなたを照らしたいと思ってる。 だから、星明かりを返して」 ■ 星明かりの解放黒い鳥は胸に抱えた星明かりを見つめ、 ゆっくりと羽を広げた。 その羽の間から、 星の光がこぼれ落ちた。 光は夜空へ戻り、 星々は再び輝き始めた。 星の子の声が響いた。 「……ありがとう…… 光が……戻った……」 黒い鳥は少女に言った。 「……わたしは…… 光を飲まなくても…… 生きられる……? 光は……わたしを照らす……?」 少女は微笑んだ。 「照らすよ。 あなたが光を求める限り、 星はあなたを照らす」 黒い鳥は静かに羽ばたき、 夜空へ舞い上がった。 今度は星を飲むのではなく、 星の間を優しく飛び、 星明かりを守るように舞っていた。 ■ その後の世界星々は再び輝きを取り戻し、 夜空は深く澄んだ光で満ちた。 村人たちは言った。 「星が戻った!」 「黒い鳥は星を守る鳥になったのだ」 「星明かりを飲む鳥は、 星明かりを抱く鳥になった」 ホシノ・メノコは夜空を見上げた。 黒い鳥が星の間を飛び、 星明かりを優しく揺らしていた。 そして、人々はこう言うようになった。 「星がひときわ強く瞬く夜は、 星明かりを飲んだ黒い鳥が、 今は星を守って飛んでいるのだ」 黒い鳥は今日も夜空を巡り、 星の光をそっと見守っている。 |