| Tweet 「アイヌ神話・民話体系」全60話 第42話 星の底で笑う赤い面 https://ganta.sa-suke.com/1042.html | |
Ⅰ 自然とカムイの章(1〜15話) 第1話 風のカムイが最初に歌った日 第2話 大地を抱くクマのカムイ 第3話 川の女神トゥラノの涙 第4話 火のカムイと雪のカムイの争い 第5話 海霧を運ぶシャチの精霊 第6話 森の影を食べるフクロウの伝承 第7話 山の心臓が鳴る夜 第8話 雷のカムイが子を授ける話 第9話 霧の中で迷う鹿の魂 第10話 星を拾った少年 第11話 氷の裂け目に住む古い神 第12話 風を縫う少女と草原の歌 第13話 湖の底の鏡の国 第14話 木の根が語る千年前の記憶 第15話 太陽を背負ったカラスの旅 Ⅱ 生活と知恵の章(16〜30話)第16話 最初のアットゥシ織り Ⅲ 戦いと民族の記憶の章(31〜50話)第31話 森を歩く影の鹿角
|
第42話 星の底で笑う赤い面 世界がまだ若く、風のカムイが歌い、大地のクマのカムイが眠りを守り、火の鳥が赤い羽を広げ、白い狼が夜明けを運び、黒鹿が月影を抱いて旅をし、青い鯨が霧の海で海の記憶を洗い、影の森の黒い花が涙となって消えたころ。 その夜空に、奇妙な揺らぎが生まれた。 星が笑っていた。 いや、正確には―― 星の光の奥で、赤い面が笑っていた。 星々は震え、 光は揺れ、 夜空はざわめいた。 星の子たちは怯えた。 「星の底に“赤い面”が現れた」 「星の光が奪われている」 「赤い面が笑うと、星が泣く」 その噂は、 星の揺れを読む少女 ホシノ・メノコ の耳にも届いた。 少女は夜空を見上げ、 星の震えを感じ取った。 「……星が怖がってる…… 赤い面が、星の底で笑ってる……」 ■ 星の底を知る白い狐そのとき、森の影から白い狐が現れた。 シロ・レクン―― 月の影を追った白い狐であり、 光と影の境界を渡ることができる存在。 狐は少女に言った。 「ホシノ・メノコよ、 星の底に“赤い面”が現れた。 星の心が揺れている。 おまえの力が必要だ」 少女は頷いた。 「星を助ける。 星が泣くのは、耐えられない」 ■ 星の底へ向かう白い狐は夜空へ跳び、 少女はその背に乗った。 夜空は深く、 星々は震え、 光は揺れていた。 やがて、星の光が渦を巻く場所にたどり着いた。 そこが―― 星の底(ホシ・シタ) だった。 星の底は、 光と影が混ざり合う不思議な世界。 星の記憶が漂い、 星の涙が光となって揺れていた。 その中心に、 赤い面が浮かんでいた。 面は笑っていた。 にやり、と。 ■ 赤い面の正体少女は震えながら言った。 「あなたが……星を泣かせているの?」 赤い面は笑いながら答えた。 「……星は……弱い…… 光は……脆い…… わたしは……星の“恐れ”…… 恐れが形を取ったもの…… 恐れは……笑う…… 笑えば……光は揺れる……」 少女は息を呑んだ。 「星の……恐れ……?」 白い狐が言った。 「星は光を放つが、 その光が消えることを恐れている。 その恐れが積もれば、 “赤い面”となって現れる」 少女は胸に手を当てた。 「星は……消えるのが怖いんだ……」 ■ 星の恐れと向き合う赤い面は揺れ、 少女に近づいた。 「……おまえも……恐れている…… 星を救えぬことを…… 光を守れぬことを…… その恐れを……わたしに寄こせ…… わたしは……恐れを喰う……」 少女は後ずさった。 ――わたしは星を救えるのか。 ――赤い面に勝てるのか。 ――星の光を守れるのか。 白い狐が叫んだ。 「心を強く持て! 恐れは影だ! 影は心の揺れを映すだけだ!」 少女は深く息を吸い、 赤い面に向かって叫んだ。 「わたしは恐れてなんかいない! 星は弱くない! 星は光を放つ力を持ってる! 恐れは星の一部だけど、 星を支配するものじゃない!」 赤い面は揺れた。 「……星は……弱くない……? 光は……消えない……?」 少女は頷いた。 「光は消えない。 星は夜を照らすために生まれたんだよ」 ■ 赤い面の浄化少女の言葉が星の底に響き、 赤い面は震え始めた。 「……あたたかい…… これは……星の心……?」 白い狐が言った。 「恐れは光に照らされれば消える。 おまえは恐れそのもの。 光を受け入れれば、消えるのだ」 赤い面はゆっくりと光に包まれ、 形を失い、 星の光へと溶けていった。 星の底が輝き、 星々は再び強く光り始めた。 ■ 星の帰還少女と白い狐は夜空へ戻った。 星々は澄んだ光を放ち、 夜空は静かに息をした。 星の子の声が響いた。 「……ありがとう…… 星の恐れが消えた…… 光が戻った……」 少女は夜空を見上げた。 「星は……もう大丈夫だね」 白い狐は頷いた。 「おまえの心が、星の恐れを照らした。 光は恐れを越える。 それが星の力だ」 ■ その後の世界それ以来、 星がひときわ強く輝く夜には、 人々はこう言うようになった。 「あれは、星の底で笑っていた赤い面が 光に溶けた証だ」 星は今日も夜空を照らし、 恐れを越えて輝き続けている。 |