「アイヌ神話・民話体系」全60話 第42話 星の底で笑う赤い面 https://ganta.sa-suke.com/1042.html

Ⅰ 自然とカムイの章(1〜15話)

第1話 風のカムイが最初に歌った日
第2話 大地を抱くクマのカムイ
第3話 川の女神トゥラノの涙
第4話 
火のカムイと雪のカムイの争い
第5話 海霧を運ぶシャチの精霊
第6話 森の影を食べるフクロウの伝承
第7話 山の心臓が鳴る夜
第8話 雷のカムイが子を授ける話
第9話 霧の中で迷う鹿の魂
第10話 星を拾った少年
第11話 氷の裂け目に住む古い神
第12話 風を縫う少女と草原の歌
第13話 湖の底の鏡の国
第14話 木の根が語る千年前の記憶
第15話 太陽を背負ったカラスの旅

Ⅱ 生活と知恵の章(16〜30話)

第16話 最初のアットゥシ織り
第17話 狩人と弓の精霊の契約
第18話 鮭を呼ぶ歌の誕生
第19話 村を救った薬草の物語
第20話 海を渡る影の船
第21話 風の穴に落ちた少年
第22話 火の鳥が落とした赤い羽
第23話 熊送りの儀式が生まれた日
第24話 星を喰べた山の巨人
第25話 霧の森で笑う子どもたち
第26話 夜明けを運ぶ白い狼
第27話 影を縫う蜘蛛の巣
第28話 風の骨を拾う少年
第29話 月影を抱く黒鹿の旅
第30話 海底に沈んだ風の鈴

Ⅲ 戦いと民族の記憶の章(31〜50話)

第31話 森を歩く影の鹿角
第32話 雪を食べる白い影
第33話 風を忘れた山の梟
第34話 影を渡る黒い舟
第35話 星明かりを飲む黒い鳥
第36話 夜の川を渡る赤い魚
第37話 影を食べる黒い霧
第38話 風の底で眠る青い石
第39話 最後の戦いと雪嵐の夜
第40話 霧の海で歌う青い鯨
第41話 影の森で眠る黒い花
第42話 星の底で笑う赤い面
第43話 風の声を盗む黒い羽
第44話 雪の底で笑う白い面
第45話 夜明けを盗む黒い狼
第46話 影の海で眠る青い面
第47話 風の森で泣く白い鳥
第48話 月の森で歌う黒い鹿
第49話 影の谷で眠る赤い狐
第50話 風の底で歌う白い面

Ⅳ 星・海・影・雪・風 「鳥・鯨・狐・面・鹿」(51〜60話)

第51話 星の森で眠る青い鳥
第52話 海の底で笑う黒い鯨
第53話 影の森で歌う白い狐
第54話 雪の森で眠る黒い面
第55話 風の影で笑う青い狐
第56話 月の底で眠る白い鳥
第57話 影の底で笑う黒い鳥
第58話 風の森で眠る赤い鳥
第59話 星の底で笑う白い狐
第60話 雪の底で歌う黒い鹿

第42話 星の底で笑う赤い面

世界がまだ若く、風のカムイが歌い、大地のクマのカムイが眠りを守り、火の鳥が赤い羽を広げ、白い狼が夜明けを運び、黒鹿が月影を抱いて旅をし、青い鯨が霧の海で海の記憶を洗い、影の森の黒い花が涙となって消えたころ。  その夜空に、奇妙な揺らぎが生まれた。

星が笑っていた。

いや、正確には――  星の光の奥で、赤い面が笑っていた。

星々は震え、  光は揺れ、  夜空はざわめいた。

星の子たちは怯えた。

「星の底に“赤い面”が現れた」  「星の光が奪われている」  「赤い面が笑うと、星が泣く」

その噂は、  星の揺れを読む少女 ホシノ・メノコ の耳にも届いた。

少女は夜空を見上げ、  星の震えを感じ取った。

「……星が怖がってる……   赤い面が、星の底で笑ってる……」

■ 星の底を知る白い狐

そのとき、森の影から白い狐が現れた。

シロ・レクン――  月の影を追った白い狐であり、  光と影の境界を渡ることができる存在。

狐は少女に言った。

「ホシノ・メノコよ、   星の底に“赤い面”が現れた。   星の心が揺れている。   おまえの力が必要だ」

少女は頷いた。

「星を助ける。   星が泣くのは、耐えられない」

■ 星の底へ向かう

白い狐は夜空へ跳び、  少女はその背に乗った。

夜空は深く、  星々は震え、  光は揺れていた。

やがて、星の光が渦を巻く場所にたどり着いた。

そこが――  星の底(ホシ・シタ) だった。

星の底は、  光と影が混ざり合う不思議な世界。

星の記憶が漂い、  星の涙が光となって揺れていた。

その中心に、  赤い面が浮かんでいた。

面は笑っていた。

にやり、と。

■ 赤い面の正体

少女は震えながら言った。

「あなたが……星を泣かせているの?」

赤い面は笑いながら答えた。

「……星は……弱い……   光は……脆い……   わたしは……星の“恐れ”……   恐れが形を取ったもの……   恐れは……笑う……   笑えば……光は揺れる……」

少女は息を呑んだ。

「星の……恐れ……?」

白い狐が言った。

「星は光を放つが、   その光が消えることを恐れている。   その恐れが積もれば、   “赤い面”となって現れる」

少女は胸に手を当てた。

「星は……消えるのが怖いんだ……」

■ 星の恐れと向き合う

赤い面は揺れ、  少女に近づいた。

「……おまえも……恐れている……   星を救えぬことを……   光を守れぬことを……   その恐れを……わたしに寄こせ……   わたしは……恐れを喰う……」

少女は後ずさった。

――わたしは星を救えるのか。  ――赤い面に勝てるのか。  ――星の光を守れるのか。

白い狐が叫んだ。

「心を強く持て!   恐れは影だ!   影は心の揺れを映すだけだ!」

少女は深く息を吸い、  赤い面に向かって叫んだ。

「わたしは恐れてなんかいない!   星は弱くない!   星は光を放つ力を持ってる!   恐れは星の一部だけど、   星を支配するものじゃない!」

赤い面は揺れた。

「……星は……弱くない……?   光は……消えない……?」

少女は頷いた。

「光は消えない。   星は夜を照らすために生まれたんだよ」

■ 赤い面の浄化

少女の言葉が星の底に響き、  赤い面は震え始めた。

「……あたたかい……   これは……星の心……?」

白い狐が言った。

「恐れは光に照らされれば消える。   おまえは恐れそのもの。   光を受け入れれば、消えるのだ」

赤い面はゆっくりと光に包まれ、  形を失い、  星の光へと溶けていった。

星の底が輝き、  星々は再び強く光り始めた。

■ 星の帰還

少女と白い狐は夜空へ戻った。

星々は澄んだ光を放ち、  夜空は静かに息をした。

星の子の声が響いた。

「……ありがとう……   星の恐れが消えた……   光が戻った……」

少女は夜空を見上げた。

「星は……もう大丈夫だね」

白い狐は頷いた。

「おまえの心が、星の恐れを照らした。   光は恐れを越える。   それが星の力だ」

■ その後の世界

それ以来、  星がひときわ強く輝く夜には、  人々はこう言うようになった。

「あれは、星の底で笑っていた赤い面が  光に溶けた証だ」

星は今日も夜空を照らし、  恐れを越えて輝き続けている。