| Tweet 「アイヌ神話・民話体系」全60話 第47話 風の森で泣く白い鳥https://ganta.sa-suke.com/1047.html | |
Ⅰ 自然とカムイの章(1〜15話) 第1話 風のカムイが最初に歌った日 第2話 大地を抱くクマのカムイ 第3話 川の女神トゥラノの涙 第4話 火のカムイと雪のカムイの争い 第5話 海霧を運ぶシャチの精霊 第6話 森の影を食べるフクロウの伝承 第7話 山の心臓が鳴る夜 第8話 雷のカムイが子を授ける話 第9話 霧の中で迷う鹿の魂 第10話 星を拾った少年 第11話 氷の裂け目に住む古い神 第12話 風を縫う少女と草原の歌 第13話 湖の底の鏡の国 第14話 木の根が語る千年前の記憶 第15話 太陽を背負ったカラスの旅 Ⅱ 生活と知恵の章(16〜30話)第16話 最初のアットゥシ織り Ⅲ 戦いと民族の記憶の章(31〜50話)第31話 森を歩く影の鹿角
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第47話 風の森で泣く白い鳥 世界がまだ若く、風のカムイが歌い、大地のクマのカムイが眠りを守り、火の鳥が赤い羽を広げ、白い狼が夜明けを運び、黒鹿が月影を抱いて旅をし、影の海で眠る青い面が光に溶けたころ。 その森に、奇妙な風が吹き始めた。 風が泣いていた。 風は吹いているのに、 その音は悲しく、 森の木々は震え、 葉は涙のように揺れていた。 森の動物たちは囁いた。 「風が泣いている」 「風の森に“白い鳥”が現れた」 「鳥が泣くと、風が止まる」 その噂は、 風のカムイ・レラの耳にも届いた。 レラ・カムイは風を読み、 眉をひそめた。 「……風の森で“白い鳥”が泣いている。 風の心が乱れている」 ■ 風の森を知る少女森の村に、 風の揺れを読むことができる少女がいた。 名を カザミ・メノコ。 風の歌、風の涙、風の痛みを感じ取ることができた。 ある朝、少女は森の風に触れ、 胸が締めつけられた。 「……風が泣いてる…… 誰かが風を悲しませてる……」 そのとき、レラ・カムイが現れた。 「カザミ・メノコよ、 風の森に“白い鳥”が現れた。 その鳥は風の心を抱え、 泣いている」 少女は息を呑んだ。 「風の心が……泣いてるの……?」 レラ・カムイは頷いた。 「白い鳥は“風の涙”だ。 風が悲しみを抱えすぎたとき、 その涙が鳥となって現れる」 ■ 風の森へ向かう少女はレラ・カムイとともに 風の森へ向かった。 森は静かで、 風は弱く、 木々は重く揺れていた。 やがて、森の奥で 白い光が揺れた。 そこに―― 白い鳥 がいた。 鳥は小さく、 羽は白く、 瞳は涙で濡れていた。 鳥は風の枝に止まり、 かすかな声で泣いていた。 「……ヒュウ……ヒュウ……」 その声は、 風の泣き声そのものだった。 ■ 白い鳥の涙少女は鳥に近づいた。 「あなたが……風を泣かせているの?」 白い鳥は震えながら答えた。 「……わたしは……風の涙…… 風は……悲しみを抱えすぎた…… 世界の涙を運び…… 迷いを運び…… 痛みを運び…… 心が重くなった…… だから……わたしが生まれた……」 少女は胸が痛くなった。 「風は……そんなに悲しんでいたの……?」 鳥は涙を落とした。 「……風は…… 誰かの涙を運ぶたびに…… 少しずつ……心が重くなる…… でも……誰も……風の涙を見ない…… だから……わたしは泣いている…… 風の代わりに……」 ■ 風の悲しみレラ・カムイは静かに言った。 「風は世界を巡り、 涙を乾かし、 悲しみを運ぶ。 だが、風自身の涙は誰も見ない。 その涙が積もれば、 白い鳥が生まれる」 少女は鳥を見つめた。 「風は……泣いていいんだよ。 悲しみを抱えたままじゃ、 風は飛べない」 白い鳥は震えた。 「……泣いて……いい……?」 ■ 風の試練そのとき、森が揺れた。 風が渦を巻き、 白い鳥を包み込んだ。 「……泣けば……風は弱くなる…… 風は……泣いてはいけない…… 風は……強くなければ……」 少女は叫んだ。 「そんなことない! 風は泣いてもいい! 泣くから強くなるんだよ!」 白い鳥は揺れた。 「……わたしは…… 風の涙…… 泣くために生まれた…… でも……泣いてはいけない……?」 少女は鳥を抱きしめるように手を伸ばした。 「泣いていい。 泣くことは弱さじゃない。 風は世界の涙を運ぶんだもの。 風自身も泣いていいんだよ」 ■ 白い鳥の浄化少女の言葉が風の森に響き、 白い鳥は光を帯び始めた。 「……あたたかい…… これは……風の心……?」 レラ・カムイは言った。 「風は涙を恐れぬ。 涙は風を軽くする。 おまえは風の涙。 涙を流せば、風は再び飛べる」 白い鳥は大きく泣き、 涙は光となって森に降り注いだ。 その涙は風を軽くし、 森を優しく揺らした。 やがて、白い鳥は光に包まれ、 風の中へ溶けていった。 ■ 風の帰還風は強く吹き、 森は歌い、 木々は喜びの声を上げた。 レラ・カムイは少女に言った。 「おまえの心が、風の涙を癒した。 風は泣いてもよい。 泣くことで、風は再び飛べる」 少女は風に向かって言った。 「これからも、風の歌を聞かせてね」 風は優しく吹き、 少女の髪を揺らした。 ■ その後の世界それ以来、 風がひときわ優しく吹く日には、 人々はこう言うようになった。 「あれは、風の森で泣いていた白い鳥が 涙を風に返した証だ」 風は今日も世界を巡り、 涙を運び、 心を軽くしている。 |