| Tweet 「アイヌ神話・民話体系」全60話 第28話 風の骨を拾う少年https://ganta.sa-suke.com/1028.html | |
Ⅰ 自然とカムイの章(1〜15話) 第1話 風のカムイが最初に歌った日 第2話 大地を抱くクマのカムイ 第3話 川の女神トゥラノの涙 第4話 火のカムイと雪のカムイの争い 第5話 海霧を運ぶシャチの精霊 第6話 森の影を食べるフクロウの伝承 第7話 山の心臓が鳴る夜 第8話 雷のカムイが子を授ける話 第9話 霧の中で迷う鹿の魂 第10話 星を拾った少年 第11話 氷の裂け目に住む古い神 第12話 風を縫う少女と草原の歌 第13話 湖の底の鏡の国 第14話 木の根が語る千年前の記憶 第15話 太陽を背負ったカラスの旅 Ⅱ 生活と知恵の章(16〜30話)第16話 最初のアットゥシ織り Ⅲ 戦いと民族の記憶の章(31〜50話)第31話 森を歩く影の鹿角
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第28話 風の骨を拾う少年 ムイが歌い、大地のクマのカムイが眠りを守り、川の女神トゥラノが森を癒し、火の鳥が赤い羽を広げ、白い狼が夜明けを運び、影を縫う蜘蛛が心の裂け目をそっと繕っていたころ。 その草原の北端に、奇妙な噂が広がっていた。 「風の骨が落ちている」 風に骨などあるはずがない。 だが、草原を歩く者たちは皆、同じものを見たと言った。 「白くて細い、風のように軽い骨だ」 「触ると風の音がする」 「拾うと風が泣く」 村人たちは恐れ、 風の骨には近づかないようにしていた。 しかし、その骨に興味を持つ少年がいた。 名を カゼ・シリ・ポロ―― 風の音を聞くことができる少年だった。 ■ 風の骨との出会いある日、カゼ・シリ・ポロは草原を歩いていた。 風は優しく吹き、 草は揺れ、 空は青く澄んでいた。 そのとき、足元で何かが光った。 「……これは……?」 少年が拾い上げると、 それは白く細い、鳥の骨のようなものだった。 しかし、触れた瞬間―― 骨が風の音を発した。 ヒュウ……ヒュウ…… まるで風が泣いているような音だった。 少年は驚いた。 「これが……風の骨……?」 そのとき、風が強く吹き、 少年の耳元で声がした。 「……返して…… それは……わたしの……骨……」 少年は息を呑んだ。 「風が……しゃべった……?」 ■ 風のカムイの嘆き風の音は続いた。 「……わたしの体が……砕けていく…… 風の骨が……散らばっていく…… このままでは……風は死ぬ……」 カゼ・シリ・ポロは震えながら言った。 「風が……死ぬ……? どうして……?」 風は弱々しく答えた。 「“風の骨” は、風の心の欠片…… 心が裂ければ……骨も砕ける…… わたしは……弱っている…… 風の底が……乱れている……」 少年は決意した。 「ぼくが風の骨を集める! 風を助けるんだ!」 風はかすかに揺れた。 「……ありがとう…… だが……風の骨は…… “風の底” に落ちていく…… そこは……危険だ……」 少年は胸を張った。 「ぼくは風の音を聞ける。 風の底だって、きっと行ける!」 ■ 風の骨を集める旅カゼ・シリ・ポロは草原を駆け、 風の骨を探し始めた。 骨は草の間に落ち、 木の枝に引っかかり、 川のほとりに漂っていた。 骨に触れるたび、 風の声が聞こえた。 「……さむい……」 「……こわい……」 「……ひとりは……いやだ……」 少年は骨を抱きしめた。 「大丈夫だよ。 ぼくが集めてあげる」 やがて、少年の袋は 風の骨でいっぱいになった。 しかし、風の声はまだ弱かった。 「……まだ……足りない…… 風の底に……もっとある……」 少年は風の底へ向かう決意をした。 ■ 風の底へ風の底は、 草原の中央にある深い渦だった。 風が渦を巻き、 空気が震え、 地面が風に吸い込まれていた。 少年は渦の前に立った。 「ここが……風の底……」 そのとき、影の狐レクン・カムイが現れた。 「風の底へ行くのか。 あそこは危険だ。 風が心を試す場所だ」 少年は頷いた。 「ぼくは風を助けたい。 だから行く」 レクン・カムイは影を揺らした。 「ならば、影の道を貸そう。 風に飲まれぬよう、影が支える」 少年は影の道を踏み、 風の渦の中へ飛び込んだ。 ■ 風の底の試練風の底は、 空と地面が逆さまに揺れる奇妙な世界だった。 風が壁のように立ち、 風が川のように流れ、 風が獣のように吠えていた。 その中心に、 砕けた風の骨が散らばっていた。 少年は骨を拾い集めた。 しかし、風の底の風が叫んだ。 「……返せ…… 骨は……わたしのもの…… おまえは……風ではない…… 骨を持つ資格は……ない……」 少年は叫んだ。 「ぼくは風じゃないけど、 風が好きなんだ! 風を助けたいんだ!」 風は揺れた。 「……助けたい……? なぜ……?」 少年は胸に手を当てた。 「風はぼくの友だよ。 ぼくは風の音に救われたことがある。 だから今度は、ぼくが風を救う!」 風の底が静まり、 風の骨が光り始めた。 ■ 風の心の復活少年が集めた骨が ひとつに集まり、 白い光となって風の中へ溶けていった。 風が優しく吹いた。 「……ありがとう…… おまえの心が…… わたしの骨をつないだ…… 風は……生き返った……」 風は少年を包み、 草原へと運んだ。 ■ その後の世界草原に戻ると、 風は軽やかに吹き、 草は歌うように揺れた。 村人たちは驚いた。 「風が戻った!」 「風の骨がつながったのか?」 「風が笑っている……!」 カゼ・シリ・ポロは風に向かって言った。 「これからも、ぼくに風の音を聞かせてね」 風は優しく吹き、 少年の髪を揺らした。 そして、草原に風が強く吹く日には、 人々はこう言うようになった。 「あれは、風の骨を拾った少年に 風が感謝して歌っているのだ」 風は今日も世界を巡り、 少年の心に寄り添って吹いている。 |