| Tweet 「アイヌ神話・民話体系」全60話 第24話 星を喰べた山の巨人https://ganta.sa-suke.com/1024.html | |
Ⅰ 自然とカムイの章(1〜15話) 第1話 風のカムイが最初に歌った日 第2話 大地を抱くクマのカムイ 第3話 川の女神トゥラノの涙 第4話 火のカムイと雪のカムイの争い 第5話 海霧を運ぶシャチの精霊 第6話 森の影を食べるフクロウの伝承 第7話 山の心臓が鳴る夜 第8話 雷のカムイが子を授ける話 第9話 霧の中で迷う鹿の魂 第10話 星を拾った少年 第11話 氷の裂け目に住む古い神 第12話 風を縫う少女と草原の歌 第13話 湖の底の鏡の国 第14話 木の根が語る千年前の記憶 第15話 太陽を背負ったカラスの旅 Ⅱ 生活と知恵の章(16〜30話)第16話 最初のアットゥシ織り Ⅲ 戦いと民族の記憶の章(31〜50話)第31話 森を歩く影の鹿角
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第24話 星を喰べた山の巨人 世界がまだ若く、風のカムイが歌い、大地のクマのカムイが眠りを守り、川の女神トゥラノが森を癒し、海のシャチの精霊が霧を運び、影の舟が夜の海を渡り、火の鳥が赤い羽を広げて空を巡り、影をなくした熊の子が影と和解したころ。 その夜空に、奇妙な異変が起きた。 星がひとつ、消えた。 誰も気づかぬほど小さな星だったが、 星々の歌を聞く者には、その欠けた音がはっきりとわかった。 風のカムイ・レラは空を見上げて言った。 「星が……喰われた。 これは自然の消滅ではない。 何者かが星を奪ったのだ」 星の子を助けた少年レタラ・シモも、 胸の奥に小さな痛みを感じていた。 「星が……泣いている……」 そのとき、山の方角から、 地鳴りのような低い声が響いた。 「……うまい…… もっと……星を……」 それは、山の巨人の声だった。 ■ 山の巨人の噂森の動物たちは震えた。 「山の巨人が目覚めたのか」 「星を喰べるなんて……」 「世界が暗くなるぞ」 山の巨人―― ヌプリ・ポロ・カムイ。 山そのものが姿を変えた古いカムイで、 普段は眠り続けているが、 飢えれば星を喰うと言われていた。 星を喰えば、夜空に穴が開き、 世界の均衡が崩れる。 レタラ・シモは決意した。 「ぼくが行く。 星の子を助けたぼくなら、 星の声を聞けるはずだ」 風のカムイ・レラは頷いた。 「おまえは星の友。 だが、巨人は危険だ。 ひとりでは行かせぬ」 そのとき、影の狐レクン・カムイが現れた。 「影の道はわたしが示す。 巨人の影は深く、危険だが…… 影を読む者がいれば進める」 さらに、火の鳥アペ・チェプが空を赤く染めて降りてきた。 「星の光は火の友。 わたしも力を貸そう」 こうして、 少年と風と影と火の旅が始まった。 ■ 山の巨人の住処へ山は黒く、 木々は倒れ、 岩は砕け、 まるで巨人が暴れた跡のようだった。 レタラ・シモは星の欠片を胸に抱き、 星の声を聞いた。 「……こわい…… 暗い…… たすけて……」 星の子の声だった。 「星の子が……巨人に囚われている!」 レクン・カムイは影を揺らした。 「巨人は星を喰うだけではない。 星の魂を飲み込み、 力に変えているのだ」 アペ・チェプは炎を揺らした。 「急がねば、星の子は消える」 山の奥へ進むと、 巨大な洞窟が現れた。 その中から、 地鳴りのような声が響いた。 「……もっと……星を…… もっと光を…… わしの腹を満たせ……」 ヌプリ・ポロ・カムイが姿を現した。 ■ 星を喰べる巨人巨人は山のように大きく、 体は岩でできており、 目は星の光を宿していた。 その目の奥で、 小さな星の子が震えていた。 「……たすけて…… ぼく……食べられる……」 レタラ・シモは叫んだ。 「星の子を返せ!」 巨人はゆっくりと少年を見下ろした。 「わしは飢えている…… 山は枯れ…… 大地は痩せ…… わしの力は弱った…… だから星を喰う…… 星の光は……わしの糧……」 レタラ・シモは首を振った。 「星を喰べれば、夜空が死ぬ! 世界が暗くなる!」 巨人はうめいた。 「……わしは…… 世界のことなど知らぬ…… わしはただ……生きたい……」 その声は、 どこか悲しげだった。 ■ 巨人の孤独レクン・カムイが影を揺らして言った。 「巨人よ、おまえは孤独なのだな」 巨人は揺れた。 「……孤独……? わしは山…… 誰も近づかぬ…… 誰も話さぬ…… わしは……ひとりだ……」 アペ・チェプが炎を弱めて言った。 「孤独だから星を喰うのか」 巨人はうなずいた。 「光が欲しい…… 温もりが欲しい…… だが、わしには…… 星を喰うことしかできぬ……」 レタラ・シモは胸が痛くなった。 「巨人さん…… 星を喰べなくても、 光を得る方法があるよ」 巨人は目を細めた。 「……方法……?」 ■ 星の光を分けるレタラ・シモは胸の星の欠片を取り出した。 それは、星の子からもらった光だった。 「この光を……巨人さんに分けるよ。 星を喰べなくても、 光を感じられるように」 巨人は驚いた。 「そんなことをすれば…… おまえの光が弱る……」 少年は微笑んだ。 「大丈夫。 光は分けても消えない。 光は、分け合うほど強くなるんだ」 アペ・チェプが炎を揺らした。 「その通りだ。 火も光も、分ければ増える」 レクン・カムイも頷いた。 「影も同じだ。 光があれば影は生まれる。 光を奪う必要はない」 レタラ・シモは星の欠片を巨人に差し出した。 巨人は震える手でそれを受け取った。 光が巨人の体に染み込み、 岩の体が柔らかく輝き始めた。 「……あたたかい…… これは……星の光…… わしは……星を喰べずとも…… 生きられる……?」 レタラ・シモは頷いた。 「生きられるよ。 星の子を返して」 巨人はゆっくりと目を閉じ、 星の子を解き放った。 ■ 星の子の帰還星の子はレタラ・シモの胸に飛び込んだ。 「ありがとう…… ぼく……こわかった……」 少年は優しく抱きしめた。 「もう大丈夫。 帰ろう、空へ」 アペ・チェプが翼を広げ、 星の子を空へ運んだ。 星の子は夜空へ戻り、 消えていた星が再び輝いた。 ■ その後の世界巨人は山の奥へ戻り、 星を喰べることをやめた。 山は静かに息をし、 巨人の体は星の光で温まり、 孤独は少しずつ溶けていった。 そして、夜空に星がひときわ強く輝く夜には、 人々はこう言うようになった。 「あれは、星を喰べた巨人が 星の光を胸に抱いて眠っているのだ」 巨人は今日も山の奥で、 星の光を抱きしめながら眠っている。 |