「アイヌ神話・民話体系」全60話 第24話 星を喰べた山の巨人https://ganta.sa-suke.com/1024.html

Ⅰ 自然とカムイの章(1〜15話)

第1話 風のカムイが最初に歌った日
第2話 大地を抱くクマのカムイ
第3話 川の女神トゥラノの涙
第4話 
火のカムイと雪のカムイの争い
第5話 海霧を運ぶシャチの精霊
第6話 森の影を食べるフクロウの伝承
第7話 山の心臓が鳴る夜
第8話 雷のカムイが子を授ける話
第9話 霧の中で迷う鹿の魂
第10話 星を拾った少年
第11話 氷の裂け目に住む古い神
第12話 風を縫う少女と草原の歌
第13話 湖の底の鏡の国
第14話 木の根が語る千年前の記憶
第15話 太陽を背負ったカラスの旅

Ⅱ 生活と知恵の章(16〜30話)

第16話 最初のアットゥシ織り
第17話 狩人と弓の精霊の契約
第18話 鮭を呼ぶ歌の誕生
第19話 村を救った薬草の物語
第20話 海を渡る影の船
第21話 風の穴に落ちた少年
第22話 火の鳥が落とした赤い羽
第23話 熊送りの儀式が生まれた日
第24話 星を喰べた山の巨人
第25話 霧の森で笑う子どもたち
第26話 夜明けを運ぶ白い狼
第27話 影を縫う蜘蛛の巣
第28話 風の骨を拾う少年
第29話 月影を抱く黒鹿の旅
第30話 海底に沈んだ風の鈴

Ⅲ 戦いと民族の記憶の章(31〜50話)

第31話 森を歩く影の鹿角
第32話 雪を食べる白い影
第33話 風を忘れた山の梟
第34話 影を渡る黒い舟
第35話 星明かりを飲む黒い鳥
第36話 夜の川を渡る赤い魚
第37話 影を食べる黒い霧
第38話 風の底で眠る青い石
第39話 最後の戦いと雪嵐の夜
第40話 霧の海で歌う青い鯨
第41話 影の森で眠る黒い花
第42話 星の底で笑う赤い面
第43話 風の声を盗む黒い羽
第44話 雪の底で笑う白い面
第45話 夜明けを盗む黒い狼
第46話 影の海で眠る青い面
第47話 風の森で泣く白い鳥
第48話 月の森で歌う黒い鹿
第49話 影の谷で眠る赤い狐
第50話 風の底で歌う白い面

Ⅳ 星・海・影・雪・風 「鳥・鯨・狐・面・鹿」(51〜60話)

第51話 星の森で眠る青い鳥
第52話 海の底で笑う黒い鯨
第53話 影の森で歌う白い狐
第54話 雪の森で眠る黒い面
第55話 風の影で笑う青い狐
第56話 月の底で眠る白い鳥
第57話 影の底で笑う黒い鳥
第58話 風の森で眠る赤い鳥
第59話 星の底で笑う白い狐
第60話 雪の底で歌う黒い鹿

第24話 星を喰べた山の巨人

世界がまだ若く、風のカムイが歌い、大地のクマのカムイが眠りを守り、川の女神トゥラノが森を癒し、海のシャチの精霊が霧を運び、影の舟が夜の海を渡り、火の鳥が赤い羽を広げて空を巡り、影をなくした熊の子が影と和解したころ。  その夜空に、奇妙な異変が起きた。

星がひとつ、消えた。

誰も気づかぬほど小さな星だったが、  星々の歌を聞く者には、その欠けた音がはっきりとわかった。

風のカムイ・レラは空を見上げて言った。

「星が……喰われた。   これは自然の消滅ではない。   何者かが星を奪ったのだ」

星の子を助けた少年レタラ・シモも、  胸の奥に小さな痛みを感じていた。

「星が……泣いている……」

そのとき、山の方角から、  地鳴りのような低い声が響いた。

「……うまい……   もっと……星を……」

それは、山の巨人の声だった。

■ 山の巨人の噂

森の動物たちは震えた。

「山の巨人が目覚めたのか」  「星を喰べるなんて……」  「世界が暗くなるぞ」

山の巨人――  ヌプリ・ポロ・カムイ。  山そのものが姿を変えた古いカムイで、  普段は眠り続けているが、  飢えれば星を喰うと言われていた。

星を喰えば、夜空に穴が開き、  世界の均衡が崩れる。

レタラ・シモは決意した。

「ぼくが行く。   星の子を助けたぼくなら、   星の声を聞けるはずだ」

風のカムイ・レラは頷いた。

「おまえは星の友。   だが、巨人は危険だ。   ひとりでは行かせぬ」

そのとき、影の狐レクン・カムイが現れた。

「影の道はわたしが示す。   巨人の影は深く、危険だが……   影を読む者がいれば進める」

さらに、火の鳥アペ・チェプが空を赤く染めて降りてきた。

「星の光は火の友。   わたしも力を貸そう」

こうして、  少年と風と影と火の旅が始まった。

■ 山の巨人の住処へ

山は黒く、  木々は倒れ、  岩は砕け、  まるで巨人が暴れた跡のようだった。

レタラ・シモは星の欠片を胸に抱き、  星の声を聞いた。

「……こわい……   暗い……   たすけて……」

星の子の声だった。

「星の子が……巨人に囚われている!」

レクン・カムイは影を揺らした。

「巨人は星を喰うだけではない。   星の魂を飲み込み、   力に変えているのだ」

アペ・チェプは炎を揺らした。

「急がねば、星の子は消える」

山の奥へ進むと、  巨大な洞窟が現れた。

その中から、  地鳴りのような声が響いた。

「……もっと……星を……   もっと光を……   わしの腹を満たせ……」

ヌプリ・ポロ・カムイが姿を現した。

■ 星を喰べる巨人

巨人は山のように大きく、  体は岩でできており、  目は星の光を宿していた。

その目の奥で、  小さな星の子が震えていた。

「……たすけて……   ぼく……食べられる……」

レタラ・シモは叫んだ。

「星の子を返せ!」

巨人はゆっくりと少年を見下ろした。

「わしは飢えている……   山は枯れ……   大地は痩せ……   わしの力は弱った……   だから星を喰う……   星の光は……わしの糧……」

レタラ・シモは首を振った。

「星を喰べれば、夜空が死ぬ!   世界が暗くなる!」

巨人はうめいた。

「……わしは……   世界のことなど知らぬ……   わしはただ……生きたい……」

その声は、  どこか悲しげだった。

■ 巨人の孤独

レクン・カムイが影を揺らして言った。

「巨人よ、おまえは孤独なのだな」

巨人は揺れた。

「……孤独……?   わしは山……   誰も近づかぬ……   誰も話さぬ……  わしは……ひとりだ……」

アペ・チェプが炎を弱めて言った。

「孤独だから星を喰うのか」

巨人はうなずいた。

「光が欲しい……   温もりが欲しい……   だが、わしには……   星を喰うことしかできぬ……」

レタラ・シモは胸が痛くなった。

「巨人さん……   星を喰べなくても、   光を得る方法があるよ」

巨人は目を細めた。

「……方法……?」

■ 星の光を分ける

レタラ・シモは胸の星の欠片を取り出した。

それは、星の子からもらった光だった。

「この光を……巨人さんに分けるよ。   星を喰べなくても、   光を感じられるように」

巨人は驚いた。

「そんなことをすれば……   おまえの光が弱る……」

少年は微笑んだ。

「大丈夫。   光は分けても消えない。   光は、分け合うほど強くなるんだ」

アペ・チェプが炎を揺らした。

「その通りだ。   火も光も、分ければ増える」

レクン・カムイも頷いた。

「影も同じだ。   光があれば影は生まれる。   光を奪う必要はない」

レタラ・シモは星の欠片を巨人に差し出した。

巨人は震える手でそれを受け取った。

光が巨人の体に染み込み、  岩の体が柔らかく輝き始めた。

「……あたたかい……   これは……星の光……   わしは……星を喰べずとも……   生きられる……?」

レタラ・シモは頷いた。

「生きられるよ。   星の子を返して」

巨人はゆっくりと目を閉じ、  星の子を解き放った。

■ 星の子の帰還

星の子はレタラ・シモの胸に飛び込んだ。

「ありがとう……   ぼく……こわかった……」

少年は優しく抱きしめた。

「もう大丈夫。   帰ろう、空へ」

アペ・チェプが翼を広げ、  星の子を空へ運んだ。

星の子は夜空へ戻り、  消えていた星が再び輝いた。

■ その後の世界

巨人は山の奥へ戻り、  星を喰べることをやめた。

山は静かに息をし、  巨人の体は星の光で温まり、  孤独は少しずつ溶けていった。

そして、夜空に星がひときわ強く輝く夜には、  人々はこう言うようになった。

「あれは、星を喰べた巨人が  星の光を胸に抱いて眠っているのだ」

巨人は今日も山の奥で、  星の光を抱きしめながら眠っている。