「アイヌ神話・民話体系」全60話  第10話 星を拾った少年https://ganta.sa-suke.com/1010.html

Ⅰ 
自然とカムイの章(1〜15話)

第1話 風のカムイが最初に歌った日
第2話 大地を抱くクマのカムイ
第3話 川の女神トゥラノの涙
第4話 
火のカムイと雪のカムイの争い
第5話 海霧を運ぶシャチの精霊
第6話 森の影を食べるフクロウの伝承
第7話 山の心臓が鳴る夜
第8話 雷のカムイが子を授ける話
第9話 霧の中で迷う鹿の魂
第10話 星を拾った少年
第11話 氷の裂け目に住む古い神
第12話 風を縫う少女と草原の歌
第13話 湖の底の鏡の国
第14話 木の根が語る千年前の記憶
第15話 太陽を背負ったカラスの旅

Ⅱ 生活と知恵の章(16〜30話)

第16話 最初のアットゥシ織り
第17話 狩人と弓の精霊の契約
第18話 鮭を呼ぶ歌の誕生
第19話 村を救った薬草の物語
第20話 海を渡る影の船
第21話 風の穴に落ちた少年
第22話 火の鳥が落とした赤い羽
第23話 熊送りの儀式が生まれた日
第24話 星を喰べた山の巨人
第25話 霧の森で笑う子どもたち
第26話 夜明けを運ぶ白い狼
第27話 影を縫う蜘蛛の巣
第28話 風の骨を拾う少年
第29話 月影を抱く黒鹿の旅
第30話 海底に沈んだ風の鈴

Ⅲ 戦いと民族の記憶の章(31〜50話)

第31話 森を歩く影の鹿角
第32話 雪を食べる白い影
第33話 風を忘れた山の梟
第34話 影を渡る黒い舟
第35話 星明かりを飲む黒い鳥
第36話 夜の川を渡る赤い魚
第37話 影を食べる黒い霧
第38話 風の底で眠る青い石
第39話 最後の戦いと雪嵐の夜
第40話 霧の海で歌う青い鯨
第41話 影の森で眠る黒い花
第42話 星の底で笑う赤い面
第43話 風の声を盗む黒い羽
第44話 雪の底で笑う白い面
第45話 夜明けを盗む黒い狼
第46話 影の海で眠る青い面
第47話 風の森で泣く白い鳥
第48話 月の森で歌う黒い鹿
第49話 影の谷で眠る赤い狐
第50話 風の底で歌う白い面

Ⅳ 星・海・影・雪・風 「鳥・鯨・狐・面・鹿」(51〜60話)

第51話 星の森で眠る青い鳥
第52話 海の底で笑う黒い鯨
第53話 影の森で歌う白い狐
第54話 雪の森で眠る黒い面
第55話 風の影で笑う青い狐
第56話 月の底で眠る白い鳥
第57話 影の底で笑う黒い鳥
第58話 風の森で眠る赤い鳥
第59話 星の底で笑う白い狐
第60話 雪の底で歌う黒い鹿

第10話 星を拾った少年

 世界がまだ若く、風のカムイが歌い、大地のクマのカムイが眠りを守り、川の女神トゥラノが涙で森を癒し、海のシャチの精霊が霧を運び、影を食べるフクロウが森の均衡を整え、山の心臓が静かに脈打ち、雷のカムイが空を駆けていたころ。  その夜空には、今よりもずっと多くの星が輝いていた。

星々はカムイの住処であり、世界の記憶が宿る場所でもあった。  星は夜ごとに歌い、光を放ち、地上の生き物たちを見守っていた。

しかし、ある晩――  空からひとつの星が落ちてきた。

それは、夜空を裂くように光り、  森の奥深くへと消えていった。

その光を見たのは、ひとりの少年だった。

■ 星を追う少年

少年の名は レタラ・シモ。  白い髪を持つ、不思議な雰囲気の少年だった。  村では「風の子」と呼ばれ、風のカムイ・レラの歌を聞き分けることができた。

その夜、レタラ・シモは家の外で星を眺めていた。  すると、空から光が落ちてきた。

「星が……落ちた……!」

胸が高鳴った。  星はカムイの欠片。  落ちた星には、何か大きな意味があると信じられていた。

レタラ・シモは迷わず森へ走った。

風が彼の背を押し、  木々が道を開き、  夜の鳥たちが彼を導いた。

やがて、森の奥に小さな光が見えた。

そこには――  星の欠片が落ちていた。

■ 星の欠片との出会い

星の欠片は、手のひらほどの大きさで、  青白く輝き、温かい光を放っていた。

レタラ・シモがそっと触れると、  光が揺れ、かすかな声が聞こえた。

「……さむい……   こわい……   たすけて……」

少年は驚いた。

「星が……しゃべっている……?」

光は震えながら言った。

「わたしは……星の子……   空から落ちてしまった……   空へ……帰りたい……」

レタラ・シモは胸が痛くなった。

「ぼくが助けるよ。   空へ帰る道を探そう」

星の子は弱々しく光った。

「……ありがとう……   でも……空へ帰るには……   星の道を見つけなければ……」

星の道――  それは、星々が空へ戻るための光の道。  しかし、地上からは見えないと言われていた。

■ 星の道を探す旅

レタラ・シモは星の子を抱え、森を歩き始めた。

まず向かったのは、川の女神トゥラノのもとだった。

「トゥラノさま、星の子を空へ帰したいんです。   星の道を知りませんか」

トゥラノは水面を揺らしながら言った。

「星の道は、川の流れには映らない。   だが、星の光は水を通して強くなる。   わたしの水で、その子の光を守りなさい」

トゥラノは水の膜を作り、星の子を包んだ。  光は少し強くなった。

次に向かったのは、影を食べるフクロウ、カゲ・ムンのもとだった。

「カゲ・ムン、星の道を知らない?」

カゲ・ムンは首をかしげた。

「星の道は影の外……   わたしには見えない……   だが、影を払えば、光は強くなる……」

カゲ・ムンは影を払い、星の子の光をさらに強めた。

最後に向かったのは、風のカムイ・レラだった。

「レラ・カムイ、星の道を教えて!」

レラは風を揺らしながら言った。

「星の道は空の高みにある。   だが、地上からは見えない。   見えるのは……   星を拾った者だけだ

レタラ・シモは息を呑んだ。

「ぼくが……星の道を見つけるの?」

レラは頷いた。

「おまえは風の子。   風は星の歌を運ぶ。   星の子を抱き、風の歌を聞け。   そうすれば、星の道が見える」

■ 星の道が開く

レタラ・シモは星の子を胸に抱き、  夜空を見上げた。

風が吹いた。  レラ・カムイの歌が響いた。

星の子が光り、  その光が空へ伸びた。

すると――  空に細い光の道が現れた。

「これが……星の道……!」

星の子は喜びの声を上げた。

「帰れる……空へ帰れる……!」

しかし、道は高く、遠かった。  人間の足では届かない。

そのとき、雷が鳴った。  空から雷のカムイ・フンペが現れた。

「レタラ・シモよ、よくぞ星の道を見つけた。   わたしが空へ運ぼう」

フンペは雷の光で少年と星の子を包み、  空へと舞い上がった。

■ 星の帰還

空の高みは静かで、広く、冷たかった。  星々が歌い、光が揺れ、  世界の記憶が流れていた。

星の子は光を強め、星々の間へ戻っていった。

「ありがとう、レタラ・シモ……   あなたのおかげで帰れた……   あなたは星の友……   いつかまた会いに来る……」

光は星々の中へ溶けていった。

フンペは少年を地上へ戻しながら言った。

「おまえは星を拾った者。   星々はおまえを覚えている。   夜空を見上げれば、   いつでも星の子が応えてくれるだろう」

■ その後の世界

レタラ・シモは村へ戻り、  星の子との出来事を語った。

村人たちは驚き、  「星を拾った少年」と呼ぶようになった。

そして、夜空にひときわ明るい星が輝くとき、  人々はこう言う。

「あれは、レタラ・シモが助けた星の子だ」

星の道は今も空の高みにあり、  星を拾う者が現れるのを静かに待っている。