| Tweet 「アイヌ神話・民話体系」全60話 第10話 星を拾った少年https://ganta.sa-suke.com/1010.html | |
Ⅰ 自然とカムイの章(1〜15話) 第1話 風のカムイが最初に歌った日 第2話 大地を抱くクマのカムイ 第3話 川の女神トゥラノの涙 第4話 火のカムイと雪のカムイの争い 第5話 海霧を運ぶシャチの精霊 第6話 森の影を食べるフクロウの伝承 第7話 山の心臓が鳴る夜 第8話 雷のカムイが子を授ける話 第9話 霧の中で迷う鹿の魂 第10話 星を拾った少年 第11話 氷の裂け目に住む古い神 第12話 風を縫う少女と草原の歌 第13話 湖の底の鏡の国 第14話 木の根が語る千年前の記憶 第15話 太陽を背負ったカラスの旅 Ⅱ 生活と知恵の章(16〜30話)第16話 最初のアットゥシ織り Ⅲ 戦いと民族の記憶の章(31〜50話)第31話 森を歩く影の鹿角
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第10話 星を拾った少年 世界がまだ若く、風のカムイが歌い、大地のクマのカムイが眠りを守り、川の女神トゥラノが涙で森を癒し、海のシャチの精霊が霧を運び、影を食べるフクロウが森の均衡を整え、山の心臓が静かに脈打ち、雷のカムイが空を駆けていたころ。 その夜空には、今よりもずっと多くの星が輝いていた。 星々はカムイの住処であり、世界の記憶が宿る場所でもあった。 星は夜ごとに歌い、光を放ち、地上の生き物たちを見守っていた。 しかし、ある晩―― 空からひとつの星が落ちてきた。 それは、夜空を裂くように光り、 森の奥深くへと消えていった。 その光を見たのは、ひとりの少年だった。 ■ 星を追う少年少年の名は レタラ・シモ。 白い髪を持つ、不思議な雰囲気の少年だった。 村では「風の子」と呼ばれ、風のカムイ・レラの歌を聞き分けることができた。 その夜、レタラ・シモは家の外で星を眺めていた。 すると、空から光が落ちてきた。 「星が……落ちた……!」 胸が高鳴った。 星はカムイの欠片。 落ちた星には、何か大きな意味があると信じられていた。 レタラ・シモは迷わず森へ走った。 風が彼の背を押し、 木々が道を開き、 夜の鳥たちが彼を導いた。 やがて、森の奥に小さな光が見えた。 そこには―― 星の欠片が落ちていた。 ■ 星の欠片との出会い星の欠片は、手のひらほどの大きさで、 青白く輝き、温かい光を放っていた。 レタラ・シモがそっと触れると、 光が揺れ、かすかな声が聞こえた。 「……さむい…… こわい…… たすけて……」 少年は驚いた。 「星が……しゃべっている……?」 光は震えながら言った。 「わたしは……星の子…… 空から落ちてしまった…… 空へ……帰りたい……」 レタラ・シモは胸が痛くなった。 「ぼくが助けるよ。 空へ帰る道を探そう」 星の子は弱々しく光った。 「……ありがとう…… でも……空へ帰るには…… 星の道を見つけなければ……」 星の道―― それは、星々が空へ戻るための光の道。 しかし、地上からは見えないと言われていた。 ■ 星の道を探す旅レタラ・シモは星の子を抱え、森を歩き始めた。 まず向かったのは、川の女神トゥラノのもとだった。 「トゥラノさま、星の子を空へ帰したいんです。 星の道を知りませんか」 トゥラノは水面を揺らしながら言った。 「星の道は、川の流れには映らない。 だが、星の光は水を通して強くなる。 わたしの水で、その子の光を守りなさい」 トゥラノは水の膜を作り、星の子を包んだ。 光は少し強くなった。 次に向かったのは、影を食べるフクロウ、カゲ・ムンのもとだった。 「カゲ・ムン、星の道を知らない?」 カゲ・ムンは首をかしげた。 「星の道は影の外…… わたしには見えない…… だが、影を払えば、光は強くなる……」 カゲ・ムンは影を払い、星の子の光をさらに強めた。 最後に向かったのは、風のカムイ・レラだった。 「レラ・カムイ、星の道を教えて!」 レラは風を揺らしながら言った。 「星の道は空の高みにある。 だが、地上からは見えない。 見えるのは…… 星を拾った者だけだ」 レタラ・シモは息を呑んだ。 「ぼくが……星の道を見つけるの?」 レラは頷いた。 「おまえは風の子。 風は星の歌を運ぶ。 星の子を抱き、風の歌を聞け。 そうすれば、星の道が見える」 ■ 星の道が開くレタラ・シモは星の子を胸に抱き、 夜空を見上げた。 風が吹いた。 レラ・カムイの歌が響いた。 星の子が光り、 その光が空へ伸びた。 すると―― 空に細い光の道が現れた。 「これが……星の道……!」 星の子は喜びの声を上げた。 「帰れる……空へ帰れる……!」 しかし、道は高く、遠かった。 人間の足では届かない。 そのとき、雷が鳴った。 空から雷のカムイ・フンペが現れた。 「レタラ・シモよ、よくぞ星の道を見つけた。 わたしが空へ運ぼう」 フンペは雷の光で少年と星の子を包み、 空へと舞い上がった。 ■ 星の帰還空の高みは静かで、広く、冷たかった。 星々が歌い、光が揺れ、 世界の記憶が流れていた。 星の子は光を強め、星々の間へ戻っていった。 「ありがとう、レタラ・シモ…… あなたのおかげで帰れた…… あなたは星の友…… いつかまた会いに来る……」 光は星々の中へ溶けていった。 フンペは少年を地上へ戻しながら言った。 「おまえは星を拾った者。 星々はおまえを覚えている。 夜空を見上げれば、 いつでも星の子が応えてくれるだろう」 ■ その後の世界レタラ・シモは村へ戻り、 星の子との出来事を語った。 村人たちは驚き、 「星を拾った少年」と呼ぶようになった。 そして、夜空にひときわ明るい星が輝くとき、 人々はこう言う。 「あれは、レタラ・シモが助けた星の子だ」 星の道は今も空の高みにあり、 星を拾う者が現れるのを静かに待っている。 |